
スピリチュアルや自己啓発の世界では、「ポジティブ思考が大事」とよく言われます。
これは、その通りだと思います。物事を前向きに受け取れるようになると、自分が心地よく生きられますし、霊性も下がりにくくなります。
ただ、ポジティブ思考には落とし穴があります。心理の世界で「スピリチュアルバイパス」と呼ばれるものです。
嫌なことがあっても「これも何かの学びだ」と思うようにしている。落ち込みそうになったら「感謝、感謝」と唱えて気持ちを切り替える。
そうやって前を向こうとしているのに、なぜか心の奥のほうが重いまま。しばらくすると、同じことでまた同じように不快な気持ちが湧き上がってくる。
そんな経験はないでしょうか。
もしかしたら、ポジティブ思考を、見たくない現実を見ないために使ってしまっているのかもしれません。そうであれば、前を向いているのではなく、目をそらしていることになってしまっています。
大切なのは順番です。ネガティブを受け入れてから、ポジティブに考える。
この落とし穴を知っておくと、ポジティブ思考はもっと力を発揮します。
スピリチュアルバイパスとは ─ 考え方で気持ちに蓋をしてしまうこと
スピリチュアルバイパスとは、スピリチュアルな考え方を「心の課題を見ないように避ける(バイパス)」ために使ってしまう状態のことです。英語では spiritual bypassing と書き、「スピリチュアル・バイパッシング」と訳されることもあります。
めずらしいことではありません。私自身も自分の課題を見ないように避けることがあります。心理や体のことを学んでいる人のなかにも、スピリチュアルのお好きな方のなかにも幾度も見かけてきました。
たとえば、こういう形で表れます。
- 悲しいことがあっても「何か意味がある。これは魂の成長のために起きたことでありがたいことだ」と自分に言い聞かせて、悲しまずに済ませる
- 人間関係でつらいことがあっても「波動が合わなかっただけ」と片づけて、つらさから目をそらす
- 怒られたときに「私のために言ってくれた、ありがたい」と相手へ感謝して、罪悪感や失敗から目をそらす
言っていることは、スピリチュアル的な見方からすれば一見筋が通っているように思えます。だからこそ、見たくないことから目をそらすためにポジティブ思考を使っていることに気づきにくいのです。
穏やかで達観しているように見えますが、思考で蓋をしても心の奥の感情は処理されていません。そのため、ふとした瞬間に押し込めていた苦しみが一気にあふれ出てしまうのです。
本当は悲しかったり、怖かったり、認めたくないことがあったり。そういった見たくない気持ちや思いがあるのです。現実を見て、そういった気持ちがあることに気付かなくてはいけません。
見ないようにした感情は魂を傷つけてしまいます
見ないようにポジティブに考えているとき、実は見たくない何かがあることに自分でも気付いています。気付いているからこそ「認めたくない」と思って、避けるためにポジティブ思考を使うのです。しかし、実際には気付いているので感情も動いています。
その感情は、考え方を変えて抑え込んでも消えてなくなるわけではありません。感じきれなかった感情はそのまま自分のなかに残り続け、心と体、そして魂を傷つけ続けます。
感情を抑圧したままでは霊性は引き下げられてしまいます。気付いて対処をする必要があります。
心の癒しと霊性向上が、どうつながっているのか。こちらで詳しくお話ししています。
→ インナーチャイルドの癒しと霊性向上 ─ 心を癒すことは、魂を育てる修行
怒りにも悲しみにも、役割があります
そもそも、湧き上がるネガティブな感情そのものは悪いものではありません。
怒りは困難に立ち向かい状況を変えるため、悲しみは失ったものを手放して前に進むため、恐れは危険を避けるために。生きていく上で必要な機能として備わっているのです。
ですから「ネガティブな感情はいけないもの」として感じないようにすると、かえって困ったことになります。本来その感情が果たすはずだった働きを使えなくなってしまうからです。
感情の役割と、湧き上がった気持ちの処理の仕方は、こちらでお話ししています。
→ 感情処理法とインナーチャイルドの癒し ─ 我慢した気持ちの手放し方
感情を感じること自体は何の問題もありません。問題なのは、その感情に留まり続けてしまうことです。
感情はしっかり感じて受け止めれば、自然と消化されていきます。
しかし、スピリチュアルバイパスのようにネガティブな感情を見ないように蓋をしてしまうと、消化することもできず、消えない感情がいつまでも自分の中に居座り続けることになります。
ですから、まずは「今、私は怖いんだ」「なんか悲しいな」「悪く言われたと思って、イライラしているな」。そんなふうに自分は今ネガティブになっているとありのまま認めることが大切です。
不快な感情は、インナーチャイルドを見つける手がかり
現実逃避のポジティブ思考(スピリチュアルバイパス)をしてしまうと、自分のインナーチャイルドに気づく機会を失ってしまいます。
私たちが目指しているのは、インナーチャイルドをひとつずつ癒して苦しみのもとそのものを減らしていくことです。そのためには、まず「自分がどういうときにネガティブになり、苦しくなるのか」を知らなければなりません。
その大切な手がかりが、見たくない「不快な感情」なのです。
自分が何に引っかかるのか。どういう場面で腹が立ち、どういう言葉で落ち込むのか。そこに自分の課題がそのまま表れています。
ですから、ネガティブな気持ちになったときは自分のインナーチャイルドを見つける絶好のチャンスと考えることができます。
不快な感情から自分のパターンに気づいていく取り組みについては、こちらでお話ししています。
→ 修行としてのインナーチャイルドの癒し ─ 気づくことから始まる、心の修行
それでも、ネガティブなままではいられません
とはいえ、ずっとネガティブなままでいるのはやはりつらいものです。
不快な気持ちを長く抱えていると霊性は下がっていきます。心の乱れが、そのまま魂を傷つけてしまうからです。
そして、今の霊性が本来その方にふさわしい「適正霊性」から離れていくほど、心身に悪影響が出てきます。
よくあるのは、わけもなく疲れる、何をするのも億劫になる、といったものです。心のほうも張り詰めた状態になって、ささいなことで落ち込んだり、普段より気持ちが乱れやすくなります。
その気持ちの乱れによってまた霊性が下がり、さらに不調が増すという悪循環に入ってしまいます。
ですから、ネガティブを認めたうえで、そこから抜け出す努力が必要です。
「適正霊性」については、こちらで詳しくお話ししています。
→ 3つの霊性 ─ 今の霊性・適正霊性・求められている霊性
下がった霊性をもとに戻す方法は、こちらです。
→ 霊性を下げる要因と、その対処
ネガティブから抜け出す、4つの段階
ここからは、実際にどのように向き合っていけばよいのかをお伝えします。
① 「このパターン、いつものだ」と気づく
まず「自分は今、ネガティブになっている」と気づくことです。「今、私は腹が立っている」というように、腹を立てていたり、悲しんでいたり、感情的になっている自分を否定しないで認めることです。
そして、それが自分の性格のパターンであることに目をむけます。「いつも、こういうときに腹が立つな」と、その根っこにインナーチャイルドがあるのだと理解します。
頭に血が上っている人に何を言っても通じないように、不快な感情に流されているときは考えがうまく回りません。
ところが不思議なもので、「今インナーチャイルドのパターンをやっているな」と気づくだけでいくらか落ち着いてきます。少しでも落ち着いてくれば考えることができるようになって、そのパターンに流されるところから一歩距離を取ることができます。
② 感じて、唱えて、落ち着く
不快な気持ちを受けとめたら、次はこう考えます。
「腹立つけど、ずっと腹立ってもいられないし」
そして、感情処理や祝詞・お経のお唱えで不快な感情を消化していきます。
くわしい手順は「感情処理法」の記事でお話ししていますが、その場でさっと行うときは、こんな形になります。
- そのまま感情を感じる。我慢せず「腹が立つ!」と素直に認めます。
- 息を吐きながら体の力を抜く。感じながら力を抜いて、気持ちを外に吐き出します。
- 自分に共感の声をかける。「腹立つよね」「そうだよね」と、自分で自分を認めます。
ひとつの気持ちが減ってきたら「ほかの気持ち、何かないかな」と探してみます。怒りの下に悲しさや寂しさが隠れていることはよくあります。湧き上がる感情をそのまま感じて、不快な感情を減らしていきます。
不快な感情は、感じてもおかしくなることはありません。感情は正しく感じれば消化されて次第に軽くなっていきます。「感じたら、もっとつらくなる」という心配から蓋をしてしまう方は少なくありませんが、その心配は要りません。
祝詞やお経を唱えられる環境なら
唱えられる場所と時間があるときは、般若心経を10巻、20巻と唱えるのもいいでしょう。お経や祝詞で霊性を高めることで落ち着くことができます。
不快な感情に流されていると霊性が下がってしまいます。霊性が下がったままではポジティブに物事をとらえることが困難です。
お唱えをして霊性を修正する。感情処理で気持ちを消化する。ほかの方法でも構いません。まずはインナーチャイルドに流されたままにしないで「落ち着く」ことを目指します。
③ そのうえで、ポジティブ思考に切り替える
落ち着いてくると、次第に考えがまとまってきます。インナーチャイルドのパターンに流されているときには適切な考えは浮かびにくいものです。ある程度落ち着いてから、ネガティブになったきっかけの出来事を別の見方でとらえられないか検討していきます。
たとえば、誰かに厳しく言われて腹が立ったとします。その方の言い方をもう少し柔らかいものに置き換えてみたら、叱責ではなく励ましとして受け取れるかもしれません。そもそも誰にでもそういう言い方をする方なのかもしれません。
ここで、ひとつ気になった方がいるかもしれません。
冒頭で、叱られたときに「私のために言ってくれた、ありがたい」と思うのは罪悪感から目をそらす蓋になることがある、とお話ししました。それなのに、ここでは同じような受け取り方をおすすめしています。
違いは、目をそらしたかった事実に目を向けたかどうかです。見ないように蓋をしてしまうと不快な感情は消化されず残り続けます。そして心・体・魂を傷つけてしまいます。
たとえば、見たくなかった罪悪感があるとします。その場合は蓋をせずに罪悪感に目を向けて、「叱られて怖い」「そういうインナーチャイルドを持っている」ということを受け入れたうえで、ポジティブに考えるということです。
「恥ずかしいことをした」と悔いているときも同じです。落ち着いてから、第三者の立場で考えてみてください。もし友人に「恥ずかしいことをしちゃったんだ」と相談されたらどうでしょう。「そんなの誰も気にしないよ」と応えることが多いのではないでしょうか。
落ち着いてくると、目の前で起きている出来事から距離が取れます。そうなってから、自分が楽になるようなポジティブな受け取り方を検討していきます。
ここで助けになるのが感謝です。
感謝は相手に向けられるものですが、同時に感謝している自分自身を幸せにする感情でもあります。ありがたいという気持ちになっているとき、人は自然と物事を良い方向へ捉えています。
感謝の気持ちとネガティブな感情は同時には感じにくいものです。不快な出来事のなかにも感謝できる部分を探してみてください。相手のためでなくて構いません。自分自身を楽にするために感謝の気持ちを使っていきます。
もし、どう考えてもポジティブにとらえられなかったら、「この出来事のおかげで自分のインナーチャイルドに気づかせてもらった」と考えるのもよいでしょう。「修行の機会をいただいた」「成長のチャンスをいただいた」と感謝することもできます。
一度きちんと現実を見てからであれば、多少強引にポジティブへ持っていっても逃避にはなりません。ネガティブを受け入れる、そのうえでポジティブに考える努力をする。この順番がとても大切です。
ただし、感情の使い方は人それぞれです。感謝の気持ちを感じにくい方もいます。その場合は感謝にとらわれず、自分が楽になるポジティブな受け取り方を探してください。
④ 落ち着いてから、インナーチャイルドを癒す
最後に、インナーチャイルドの癒しを行います。
ネガティブになったということは、その不快な気持ちや考えの根底にインナーチャイルドがあるということです。そして、インナーチャイルドは癒すことができます。
不快な感情に流されている最中は、癒しの作業そのものが難しくなります。落ち着いていて、時間に余裕のあるときに取り組んでください。
そうすることで、嫌な出来事がそのまま成長の材料へと変わっていきます。ネガティブには成長の種が詰まっているのです。
そう考えると、霊性を高めたいと願う修行者にとって、ネガティブになった状況は、感謝できるありがたいものだといえます。ネガティブの中にあるインナーチャイルドを癒すことで、霊性を下げる性格を変えることができるのです。
インナーチャイルドの具体的な癒し方は、こちらでお話ししています。
→ インナーチャイルドの癒し方 ─ 思い込みをほどいて、選べる自分になる
まとめ ─ 逃げないポジティブは魂の修行
レッスンに来られた方からは、よくこんな話を聞きます。
不快な気持ちや、それにともなう不調にどうすることもできなかった。それが今は、まだ乱れることは多いけれど、自分でどうにか対処していける。その変化が嬉しい。
対処できる問題ですから、見ないように蓋をする必要はありません。
まずは不快な感情に気付くこと。そして、その感情が自分の考え方や感じ方(インナーチャイルド)から来ていると理解することです。
そのうえで、
ネガティブ ⇒ 霊性が下がる ⇒ さらにネガティブ ⇒ さらに霊性が下がる
という悪循環から抜け出す努力が一つの修行になります。
- 感情処理
- 祝詞・お経
- ポジティブに考える
ほかの方法でも構いません。
- ヨーガ
- 山や海など、自然のなかや自分の好きな場所に行く
- 誰かに話を聞いてもらう
やりやすい方法でネガティブから抜け出しましょう。
ネガティブになって不快な感情にとどまり続けるのは辛いことです。そして、不快な感情は心身にダメージを与えるだけでなく、魂にもダメージを与え霊性を引き下げます。
ずっと霊性が下がったままだと、師匠や教えの霊性に引き上げられている適正霊性まで下がってしまいます。修行者にとってポジティブに捉える努力は霊性を下げないために必要であり、霊性を高める修行でもあります。
少し強引なポジティブで構いません。もちろん誰かのためのポジティブでも構いませんが、物事をポジティブに受け取れるようになると、何より自分が心地よく生きられます。まずは自分のために、ポジティブに受け取る努力をしてみてください。
ネガティブな気持ちは向き合えば成長の糧になるものです。
霊性を下げない工夫は、霊性を高める道のりの一部です。修行や心の持ち方を含めた全体は、こちらでお話ししています。
→ 霊性の高め方 ─ 根本となる修行と、高まりを早める心の持ち方